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書籍出版 海風社 書籍案内

  • 翰苑(かんえん)2016.3 vol.5
  • 翰苑(かんえん)2016.3 vol.5

    近大姫路大学人文学・人権教育研究所

    1,200円+税

    一般書 学術雑誌 / 並製 / 192頁 / 2016/3 初版

    ISBN 978-4-87616-038-9 C3030

    巻頭エッセイ 大学はどこへ行くのか/綱澤満昭
    【特集】司会/松下正和
    身近な文化財を災害と日常の滅失から守るために/内田俊秀/吉原大志/藤木 透/竹本敬市/多仁照廣 

    【論考】
    中学校社会科「近世身分」学習の改善の視点 ―日本文教出版(歴史的分野)の分析を中心として/和田幸司
    日本における外国人支援制度と子ども/松島 京
    社会的養護に関する制度改革の動向と背景/松浦 崇
    村上一郎に少しふれて/綱澤満昭
    「赤とんぼ」の解釈と表現法をめぐって
     — 三木露風と山田耕筰の「赤とんぼ忌」に寄せて/和田典子
    これからの小学校における英語教育/岸本映子

    2023.10.19

翰苑(かんえん)2016.3 vol.5

翰苑(かんえん)2016.3 vol.5

近大姫路大学人文学・人権教育研究所

1,200円+税

一般書 学術雑誌 / 並製 / 192頁 / 2016/3 初版

[座談会]
 身近な文化財を災害と日常の滅失から守るために
[パネラー](敬称略)
内田 俊秀/京都造形芸術大学 名誉教授
吉原 大志/独立行政法人 国立文化財機構東京文化財研究所アソ シエイトフェロー
藤木 透/佐用町教育委員会 教育課企画総務室文化財係
竹本 敬市/近大姫路大学教育学部特任教授・佐用郡地域史研究会会長
多仁 照廣/敦賀短期大学 元教授
[司会]
松下 正和/近大姫路大学 人文学・人権教育研究所 准教授

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【座談会】より
■改めて、文化財防災における行政・住民・大学の役割を問う

松下 予定時間も過ぎましたので、改めてパネラーの皆さんには、身近な文化財を災害時と日常時の滅失から防ぐための方策について、行政・住民・大学のそれぞれのお立場からご提言いただき、まとめに入りたいと思います。
藤木 行政というところは、もちろん部署ごとに業務が決まっているのですが、実際のところその業務が全てできているかというとそうでもないところもある。特に歴史資料の保存に関しては、住民からのニーズがないものについては、切り捨てられるという面がありますので、行政としてなかなか難しいのですが、ニーズを掘り起こすというか、関心を持っていただくというところから始めないと、行政ができる仕事になってこないということもありますので、大学には資料保全に対する関心を深めてもらうような人材を育成してもらうことが大事かなと思います。
吉原 私は、史料ネットというボランティア団体に属しつつ、職場が国立文化財機構というところでして、ある意味文化財行政を一部担うところで、今その末端にいるわけですが、私の仕事は、昨年度から始まった文化財防災ネットワーク推進事業で、災害の時に文化財や歴史資料を全国的にどう守っていくか、どう体制を作っていくかということを、全国との関連団体とも連携を取りながら始めています。このように国家レベルで取り組まねばならないこともありつつ、やっぱり実際に役割を果たしていこうと思ったら、地元の協力がないと絶対無理だと思っていまして、その中で不可欠なのは一人一人の市民の役割なんですね。さきほど藤木さんがおっしゃったニーズの話で言うと、ボランティアの皆さんのお話を聞いて、ああこれだけ古文書のニーズがあるんだなと感じました。特に参加されたきっかけが、お知り合いの方に誘われて何となく来てみたらとても楽しかったので続けているという方が何人もいらっしゃいました。ですから、国レベルの話と、皆さんのように地元で熱心にやる方がいないとうまくいかないと思いますし、古文書整理ボランティアが楽しい雰囲気だという話が出てきましたけれども、そういう場を作っているこの近大姫路大学の松下先生や竹本先生の役割というのが本当に大きいと思いますので、今後も是非継続してほしいですし、僕も東京から通いたいなぁというぐらいです。
竹本 私の場合は、佐用郡地域史研究会と地元の研究会と大学という二つの立場がありますが、先程来の先生方のお話にもありましたが、歴史資料は人類の宝であると、また文化力を表すものであるとのことで、全くその通りだなと思います。それをまたみんなのものであるとも言われました。そういうものだからこそ、今度はみんなとともにやっていくという必要があるのかなと思います。その時に地域の人たちと一緒にという視点が出てくるのかなと。地域の人たちと一緒にやっていると、歴史的なものですから、何か元気の素になるんですよね。特に古文書を読んでいると、本当に不思議と元気な力が湧いてくるのですね。よく教育の方でも言うのですが、生きる力が、定年退職後に古文書をやられても余計に、余計にというと失礼ですが、元気が出てきて長生きの素になったりもするんですね。そういう点からしても古文書が生きる力につながってくるという面も持っていると思います。これから私たちも史料のある地域の方々と一緒に頑張っていけたらと思っています。大学という立場で言いますと、夏に松下先生と一緒に学校の先生を対象とした免許状更新講習をやっているのですが、そこで地域の学校の先生方に地域の資料を教材として活用していただいて、子どもたちに伝えてくれたら、また広がっていくのではないかと。その面でも大学の役割があるのではないか、地域資料の教材化というのがこれからの大事な視点ではないかと思います。
内田 お話を伺いまして、私も六十代の半ばを過ぎたのですが、やっぱり団塊の世代というのはまだまだ使い道があるなと(笑)、地域のために古文書を読みながらもう一働きするのもありかなと思いました。たいてい我々の年齢になると、大学の先生より年が上なので「君たち何を言っているのだ」と言える年齢なので怖いものなしなのですが、若い人の指導、教育はもちろんのこと、大学の先生も指導してやるというくらいのつもりで、地域の方々にはやっていただいたらいいのではないかと思います。自分の研究以外のことで、今大学の先生はものすごく忙しいのですが、年寄りから色々と言われると、真剣に研究を考えないといけないかなぁということで、それも良い刺激になるのではないでしょうか。
松下 ありがとうございました。司会の不手際で長時間にわたりましたが、逆に言えば、多様な論点が出たともいえます。一回の座談会で全ての課題を解決する処方箋が出るという類のテーマでもありませんが、地域資料の「来し方と行く末」を考えるヒントを得ることができました。むしろ研究や実践を積み重ねながら、このような意見交流の場を継続して持つこと自体が、地域の歴史資料を守り、その担い手を支えることに繋がるのだと改めて感じました。古文書整理ボランティアの皆様による日頃のご支援に感謝するとともに、これからも播磨の歴史文化を担ってくださるようお願いをしたいと思います。ご先祖さんが残してくれたものを、子孫の世代へどのようにバトンタッチしていくのかという問題は、今に生きる我々の課題です。それぞれに立場の違いはあろうかと思いますが、今後とも本研究所をはじめ、各地の地域資料の保全活動にご理解とご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。本日は、皆様には急なご案内にもかかわらず遠方よりもお越し頂き、また地元の皆様にもお忙しい中ご参加いただき、本当にありがとうございました。
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