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板付け舟で都会を行く
盛岡 茂美 著
健治の司法試験が近づいて来た。健治にとっては五回目のチャレンジだった。壁には、「神は見ている」とか、「神は努力する人間を見捨てない」などと書かれた紙が貼られてい。すでに全面神頼みの姿勢だ。六法全書を枕にしていびきをかいている姿を見ると、健治が努力しているとはとても思えない。神様も呆れているはずだ。俊一は寝ている健治のすね毛を思い切り引っ張った。健治はアカーと叫んで飛び起き、しぶしぶ机に向かった。
机に向かう健治の背中は、さすがに五年の労苦をまとい、哀愁がにじみ出ている。俊一と信夫は健治に気遣って、食事と掃除の分担から健治をはずし、すべて二人が交替でやった。健治が布団に入る時には、信夫がマッサージを施してやった。
「健治兄、これで受からんかったらもうあきらめて肉屋を継げよ」
布団の上に横たわっている健治の腰を揉みながら、信夫が兄のようなことを言った>
「つまらんことを言わんで、もっとしっかり揉んでみぃ」
健治が薄目を開けて信夫に言った。
「信夫、イャにはまだわからんだろうけど、人間、修行を積むと、俗人には見えないものが見えるようになるわけよ。中山健治、五年間針のむしろで寝て、火のついた炭の上を歩き続けたんど。ワンには見えるのよ。今度っちいう今度は絶対受かる。大丈夫」
健治は自分に言い聞かせるように言った。そしてしばらく間をおいてから「気がする」と付け加えた。シマの飲み屋で飲んだくれていた立神健治が、どこの針のむしろで寝ていたのか俊一にはわからない。酒の神様、バッカスでもこの男のことは見捨てるだろう。
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