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新刊
長い長い不在―布村寛作品集
布村寛
2,000円+税
A5判 上製 / 192頁 / スピン / 2026年8月15日
ISBN978-4-87616-075-4
戦中・戦後の激動を生き、詩、エッセイ、小説、演劇、出版と幅広い表現の世界を歩んだ布村寛。本書は、1994年に逝去した彼の作品を、詩篇・エッセイ篇・小説篇の三部構成でまとめた作品集です。
1932年、中国東北部・奉天(現・瀋陽)に生まれた布村寛は、少年時代に大阪空襲を経験。戦後は記者として活動するかたわら、『私学公論』『ママの本』などを発刊し、絵本や育児出版にも携わりました。
その一方、若き日の街頭詩集『海のソネット』や『詩集衛星』をはじめ、独自の言葉とリズムを持つ詩を数多く残し、エッセイや小説では文学、社会、人間への鋭い眼差しを表現しています。
戦争の記憶、戦後の街、文学、社会、子ども、そして人間。多彩な活動のなかで紡がれた布村寛の言葉が、長い時間を経て、いま一冊の作品集として甦ります。

2026.08.26
あぶらかだぶら
ABRAKADABRA
これよりきみの腹の皮突きやぶる
覗きからくりアブラカダブラ(注①)を始めよう
ひとびとはおだぶつになると肛門から
脱脂綿つめられ木箱にセット
坊主が誦経で鉦鼓(注②) 通夜の客酒をのむ
これはこれ
ミミズ(注③)肛門よりひん剥いて裏返し
カエル肛門より麦稈空気ふきこんで裏返し
カッパ肛門ひらいて水死人表返し
兵隊恐怖で肛門ひらいて粗相する(注④)
道化は肛門から花ひらく
アラビアに肛門暗殺法
日本に肛門串刺し刑があったように
高貴なひとほど肛門狙う
すると大切なのは肛門だ
アブラカダブラアブラカダ
革命が裏街の古本屋のタナに並び
戦略武器が石礫火焔壜かんだかるちえらたんとはかぎらない
その昔信玄流長雪隠軍略
信長流乾坤一擲放屁兵法あるように
尻に蛭をつけ廻るブロッケン山の鬼人(注⑤)
フェニックス計画とかで拳銃筒口子宮に
突刺しアオザイの少女虐殺する
時こそ今の世
ぼくはきみ大真面目で革命戦略考えた
これぞ肛門考の肛門詩
すると大切なのは肛門だ
アブラカダブラアブラカダ
さていとしい同志諸君
ゲリラ隊長ゲバラは外科医であったとか
するとわれわれ薬剤師
敵の尻を狙うのだ
さてもいま花咲ける機動隊
びっしり雲霞の勇士たち
くりからもんもんあやなして
ヘリコプタアにブルドーザ
ぎんぎらぎんの投光車黒光りする装甲車
海丹蛸酢鴨で御出勤うにたこすがも
さてもいまひらめく黒い旗
シャツ一枚にハチマキしめた
肛門解放人民軍大浣腸衛生隊
下痢下剤投擲兵いちじくじるしあざやかに
ここを先途と投げぶつける
ヒマシ油下剤髪のフケやら虫下しヒッピー
アブラカダブラアブラカダ
人間便意の逼迫ほど死ぬ思い
鬼の面にも粗相の脅威
パンチョ・ビラ(注⑥)でも大臣でも
シェクスピア(注⑦)でも死ぬ思い
尻に火がつくとはこのことで
もう軍隊も大砲もあったものではない
一体全体これほど根源的一大事があろうか
周章狼狽総崩れ
便所さがしに走りだす
だけどきみなかなか便所ないものだ
どこにあるやら便所便所
宮殿に便所がないように
でっかいビルデパート銀行ぱびりおん
さっぱり便所みあたらない
這這のテイタラクアアモウあぶらかだ
やっとみつけた公衆便所
用を足すのに仰天だ失神だ
胸アテ膝アテ甲アテモモヒキ
警棒手錠捕縄に防弾チョッキ
ガス銃ジュラルミンのタテにヘルかぶと
ピストルしめて十一キロ(注⑧)の重装備
ああ
ああ
あぶ
あぶら
あぶらか
あぶらかだ
もうこれまでと脱漏解放!
溢れ流れる麝香の臭かインドール
たちこめる霧糞雨糞糞喰らえ
糞力発電所爆破して
肛開議事堂打ち毀し
糞力は糞力でふんりき
糞頭総理便所に走りや
尻視総監つづいて走る
資糞家まだまだ大儲け
末世も地獄も糞しだい
オシメたんぽん尻栓下痢どめ
糞船糞弾糞徒鎮圧砂袋
そらうみりく軍御用達
金は糞尿の中にこそ求め得る(注⑨)
さてどん尻のつれしょんは
三百代言糞学者
糞真面目の嘘八百括約筋的道徳説
徴兵検査の尻覗き悲糞公害の糞論文
アブラカダブラアブラカダ
さていとしい同志諸君
いいことしようよ便所(注⑩)の中で
人間とは天地ナリユキ吹きぬけの
漏斗のようなものだろう
肛門から十重二十重とえはたえ
回数寺院の回廊か
スフィンクスの迷路のように
曲りくねったパイプの筒先大伽藍
喉に突きでて
漏斗となって
かすかなひかりに飢えている
すると大切なのは肛門だろう
アブラカダブラアブラカダ