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書籍出版 海風社 書籍案内

  • 夕暮れの街から
  • 夕暮れの街から

    盛岡茂美

    1,364円+税

    B6 並製 / 312頁 / 2024年4月25日

    ISBN978-4-87616-070-9

    著者略歴
    紹介記事:南海日日新聞202454

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    2024.04.22

夕暮れの街から

夕暮れの街から

盛岡茂美

1,364円+税

B6 並製 / 312頁 / 2024年4月25日

野球帽とフラダンス

 

年を取ると男は野球帽を被って自転車で街を走り、女はフラダンスに走る…僕の持論だ。

街を歩くと必ずと言っていいほど野球帽を被って自転車に乗っている爺さんたちを見る。僕もジジイだが「ジジイのふり見て我がふり直せ」を座右の銘にしているのでそんな事はしない。ともあれ野球帽はジジイの定番だ。一方、奄美の従姉妹たちを始め、僕の周囲にはフラダンスにはまっている女たちが大勢いる。彼女たちの多くは還暦間近になってフラダンスを始め、その魅力に取りつかれている。

先日、近くの駅のロータリーが妙に賑やかなので行ってみると、お祭りのような事をやっていた。どうやら数年前にできた駅前の大型店舗が、集客のために主催したイベントのようだった。中央に舞台が設えられていて、軽やかなハワイアンをバックに、真っ赤な衣装に身を包んだ女性たちが腰を振りながらフラを踊っていた。その艶やかな動きに本能的に引き寄せられて僕は舞台の方へ近付いた。ところが遠目には若そうに見えた踊り手たちはほとんどが古希前後と思われるババ様たちだった。舞台袖では別のグループがソワソワしながら出番を待っている。こっちも皆さん、人生の酸いも甘いも噛み分けた、遥か昔にお姉さんだった方々だ。勝手に妄想を抱いた自分が悪いのに、僕は騙された気がして舞台に背を向けた。と、次に僕の目に入って来たのは、遠巻きに舞台を見つめているジジイたちだった。もちろん皆、野球帽を被っている。

男はなぜ年を取ると野球帽を被るのか。それは少年時代に野球をやったからだ。軽やかに走ってフライを捕ったりゴロを捌いたあの頃。バッターボックスに立った時の我が身の凛々しさ。今となってはすべて失われてしまった。しかし野球帽にはそれらを甦らせる力がある。被るとキリっとなって遠いあの日の自分に戻った気がするのだ。まあ残念ながら傍目にはジジイ以外の何者でもないのだけど。

比べて女たちのフラダンス。もちろん彼女たちも失った若さに未練はあるんだろうけど、そんな事より踊り自体を楽しんでいる。踊る事で自分を日常から解放し、高め、前を向く。老いを手なずけるしなやかさが、豊かな人生を築くのだ。舞台袖で出番を待つワクワク感は人生の充実そのものだ。大した用もないのに自転車でぶらつく爺さんたちにそれはない。 

結論。人前で披露する芸事は(それを見せられる側の迷惑はさておき)人を老けさせない。僕もハカダンスでも習う事にするか。