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著者からのお便り 2024.02.22

著者・鳥居真知子さんがラヂオきしわだ『りゅうたんのゴールデンタイム』に出演されました!

著者・鳥居真知子さんがラヂオきしわだ『りゅうたんのゴールデンタイム』に出演されました!

アマミゾの彼方から』の著者、鳥居真知子さんが、ラヂオきしわだ『りゅうたんのゴールデンタイム』(2024年2月10日放送)にゲスト出演されたときの発言をまとめてくださいました。

 

 『アマミゾの彼方から』に思いを込めて     鳥居真知子

 

 私が39歳の時に、幼いころより私を可愛がってくれ、敬愛していた兄を病気で亡くし、深い喪失感に陥りました。

 それまでは、神戸に住み、一介の主婦として子育てに専念していました。しかし、この兄の死を契機に、人間の「生」と「死」の問題を究明したいと考えるようになりました。

 兄の死の翌年、私は文学を通して追究しようと決心して、母校の甲南大学の大学院に入学しました。下の娘が中学生となり、子育ても一段落したところでした。

 大学院では福永武彦の文学を研究し、修士論文に彼の『ゴーギャンの世界』を取り上げました。それを通してゴーギャンが暮した南島タヒチの精神世界を知りました。 

 タヒチでは、亡くなった人間の霊魂である「テゥパパウ」が、生者と共存して見守っているという世界なのです。文献で調べると、他のミクロネシアなどの南の島も、霊魂の不滅という共通点を見出すことができました。私は、亡き兄の霊魂と会えたら、どんなに嬉しいことかと思いました。

 

 博士課程に進学して、恩師の高阪薫先生が、甲南大学で島尾敏雄研究会を創設されて、私もお手伝いをすることになりました。その中で、島尾の妻で奄美の加計呂麻島出身の島尾ミホさんの作品と出会い、その奄美の民俗文化豊かな作品に惹き込まれました。さらに日本の南の島奄美と、タヒチとの大きな共通点に驚きました。奄美でも亡くなった人の霊魂が、生きている人達を見守り交流するとのことです。

 私は、ミホさんにお会いするために、初めて奄美を訪れました。空港で出迎えてくださった関係者の奄美の方の言葉を、今も忘れません。

 「おかえりなさい」

 初めて奄美を訪れたわたしを、優しく暖かく迎えてくださいました。私はその時、

 (ああ・・・、故郷に帰ったみたいだわ)

 と、しみじみ思いました。

 それから6年間、ミホさんに会いに、毎年奄美に通いました。ある日、ミホさんを訪れると、ミホさんがにこやかに笑って言われました。

 「鳥居さん、今朝はゆっくりと島尾と、文鳥のクマちゃんのお話しをしていたのですよ」

 私はびっくりしました。島尾敏雄はもうすでに亡くなっています。でもミホさんはごく自然なように語られたのです。

 私は、奄美の心の世界にどんどん惹きこまれ、ノロやユタさんともお会いしたり、奄美のお祭りなども体験して、奄美の民俗文化を知ることに励みました。

 これらを通して分ったことは、奄美には、境界線が存在しないということです。

生者と死者の間にも境界はありません。また、本土から来た私も『おかえりなさい』と境なく受け入れてくださるのです。

 

 私は、60歳で大学を退職して、次世代に残したい児童文学の執筆をするようになりました。

 その中で、かつて私が知り得た奄美の民俗文化を題材とした作品をぜひ表わしたいという思いから、昨年『アマミゾの彼方から』を海風社から刊行することができました。

 「アマミゾ」とは、奄美で水平線のことを言います。そこには、ネリヤカナヤ(沖縄ではニライカナイ)と言い、ネリヤの神様と亡くなった人々が平和に和やかに暮らしている青く美しいところがあるそうです。

 そのネリヤの国も、砂浜から海へと続くところにあるのです。奄美の根幹であるネリヤの神様と奄美の島人は、境や隔てなくつながっているのです。

 先にも述べましたが、生者と死者にも境はありません。妖怪のケンムンとも境なく交流しています。それに病気の人も健康な人にも境はありません。

 主人公の孝太は、父を亡くして言葉が話せなくなりました。でも奄美の友達は境なく仲良く遊んでくれます。このような奄美での生活を通して、亡くなった父とも会え、言葉を取り戻して再生していったのです。

 この孝太は、私自身の投影でもあります。私は、奄美の境界線を持たない心の世界こそ、奄美の神秘の世界の源であると思います。

 今世界は不穏な状況にあります。それは国と国との境、つまり国境にこだわることから生じているのではないでしょうか。私は、人間の心の中の境界線意識を無くすことこそ、世界平和につながると確信します。

 奄美の、境界を持たない尊い心は、世界遺産となっている奄美の自然と共に、日本国中にそして世界に、発信すべき大切な心の世界遺産だと思います。

 『アマミゾの彼方から』には、以上のような思いを込めました。ぜひ一人でも多くの方々の心に、この本が届きますことを祈っております。