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著者からのお便り 2024.04.26

「いろは文字鋂」新作が届きました!

「いろは文字鋂」新作が届きました!
 
「しりとり」といえば、幼子の遊びですが、これは優雅で知的な大人のしりとりワールド。
15世紀室町時代の中期に流行した「文字鋂(くさり)」という歌あそびに出遭ってしまった著者が独自のルールのもとに更に「文字鋂」を進化させてしまったのです。
ルールはシンプル。
同音でつないだ尾音と頭音をたどっていくと「いろは歌」になるというもともとの「文字鋂」の約束事を踏襲すること。
文語体(旧仮名遣い)であること。
できる限り定型を守ること。
一度使った句はつかわないこと。
 
その著者の江尻成泰さんが最新作を送ってくれましたので、ご披露します!
 
※ルビ付きの方が断然分かりやすいので、こちらもご参照ください。

 

 

い ろ は 文 字 鋂(くさり)(その三十三ー万葉乱れ四季)     

いろはにほへと ちりぬるを    色は匂へど 散りぬるを

わかよたれそ  つねならむ    我が世誰ぞ 常ならむ

うゐのおくやま けふこえて    有為の奥山 今日越えて

あさきゆめみし ゑひもせす    浅き夢見じ 酔ひもせず

(ん)

 

(春の雑歌)

 蝦鳴く 神名火川に 影見えて 今か咲くらむ 山吹の花                                                         (巻八―一四三五 厚見王)

 

 いとよき所   朧山吹は    春神名火に  匂ふ花の秀

 仄か川の辺   辺には蝦と 豊の声満ち    地に幸はあり

 

(秋の雑歌)

 経もなく 緯も定めず 少女らが 織れる黄葉に 霜な降りそね

                                               (巻八―一五一二 大津皇子)

 

 林葉黄葉ぢぬ 緯経乱る 類無き綾を 少女ら織る輪

 和の葉錦が 輝く木々よ 四方の色畑  楽しむや我

 冷霜よ何ぞ  そこば降り満つ

 

(夏の雑歌)

 夏まけて 咲きたる唐棣 ひさかたの 雨うち降らば うつろひなむか         

             (巻八―一四八五 大伴家持)

 

 月は夏かね  懇待つ名  名細し花ら  蕾唐棣なむ

 無下なる陰雨 うちに籠り居 礼無き雨の 野の花をおお

 覆へば嘆く 美し色香や やれうつろふ間  麿も憾み気

 

(冬の雑歌)

 天霧らし 雪も降らぬか いちしろく このいつ柴に 降らまくを見む      

           (巻八―一六四三 若桜部朝臣君足)

 

 今日よやよ今日 降らぬかやここ 小松の細枝 枝も震ひて

 天曇りああ  天には霧さ  細雪小雪  木々の葉の間ゆ

 雪著き夢   目に見えぬのみ

 

 乱れし四季詩 四季の酒故 酔ひてや浮かび 密かに成すも

 文字を狂はせ 拙句回らす

           二〇二四年(令和六年)四月二十一日

 

 

 

       註

 

蝦鳴く 神名火川=このかはづは河鹿蛙のことらしい。美しい声で鳴くという。神名火は神が天から降りてくる山や森。そのあたりを流れる川で明日香なら飛鳥川。

影見えて=姿を見せて、映して。この歌はカ音を連ねた清冽な名歌。

経もなく 緯も定めず=経、緯は機織りの縦糸、横糸。きちんと織るべき布を技量不足の(?)少女が織ったみたいに縦横乱れた紅葉の錦の様。

織れる黄葉に=もみじは上代にはもみちと清音だった。また、万葉集原文では「黄葉」と書かれ「紅葉」はただ一首のみ。(巻十―二二〇一)。

四方の色畑=目にする方々に多々美しく色づいた風景。

そこば降り満つ=元歌では「霜よ降らないでおくれ」であるが、「なぜそんなにも降るのか」と変えた。(変わってしまった)。なお、この歌を作った大津皇子は懐風藻に次の「七言。述志」を残している。

天紙風筆画雲鶴。山機霜杼織葉錦。(天の紙に風の筆で雲、鶴を画く。山の機、霜の杼で紅葉の錦を織る。機、杼ともに機織りの道具)

夏まけて=夏を心待ちにして。

咲きたる唐棣・・・うつろひなむか=唐棣は初夏に赤い花をつける。「にわうめ」か「もくれん」かと言われている。その色はあせやすい、変わりやすいと歌われ「移ろふ」の枕詞になっている。

思はじと 言ひてしものを 朱華色の 変ひやすき わが心かも(巻四―六五七 大伴坂上郎女)

名細し花ら、美し色香や=細し、美しは精妙で美しい、うるわしい。美しき山、細し妹、細し女など。

礼無き雨の=礼無きは「無作法な」。この私の気も知らずに降る無情な雨。

天霧らし=天を曇らせて。

いちしろく=はっきりと。

いつ柴=茂った雑木。

 

 

       後  記

 

 この作、本当は「その三十二」になるはずだった。巻八から四季の雑歌を選び出して作り始めたのだが、いかほども進まぬうちに、にっちもさっちもいかなくなって、えい、気分転換にとあの訳のわからぬものを出したのだ。しかし作りかけはやはり何とかしたい。とて、再挑戦。

 選んだ冬の雑歌は雪が見たいと言っている。実は筆者が住んでいる大阪のこの地では長年雪を見ていない。十年も二十年も見ていない。昔は朝庭木や屋根の薄化粧に目を楽しませること、一冬に一度や二度、二度、三度はあったのだが・・・。というので取り上げた次第。

           二〇二四年(令和六年)四月二十三日